【第6部】
第12章 シャカ族の滅亡
【第7部】
第1章 悲報/第2章 ダイバダッタ/第3章 アジャセ王の微笑/第4章 旅の終わり
あとがきにかえて〔ゴータマ・ブッダ実伝〕 手塚治虫
【第6部】
第12章 シャカ族の滅亡
ボッカラサティが女を殺した犯人であることが判明し、ルリ王は部下に追わせる。ところがその部下がタッタと遭遇し、誤って殺されてしまった。ルリ王は追っ手を殺したのがシャカ族であると知って、一個大隊でせん滅に向かわせた。
カピラヴァストウでは血の気の多い者が集まってコーサラにいくさをしかけようとし、平和をのぞむ者は国を追われた。ヤショダラたちはコーサラ国へ逃げてくるが、ブッダの話を聞いて、王がみんなで国にもどろうとしたとき、戦争が始まってしまったとの報告が届いた。そのきっかけがタッタだったと聞いて、ブッダは衝撃をうける。ブッダはルリ王に「もうおひきとめはいたしません」といった。
タッタはルリ王のゾウに踏み殺され、コーサラ軍はカピラヴァストウ城へ攻め込んだ。シャカ族は全滅した。夜明けにカピラヴァストウへ着いて、タッタの死骸を見つけたブッダは「おまえには私の教えが通じなかったのか」と激しく嘆く。
【第7部】
第1章 悲報
カピラヴァストウ全滅の報せを聞いて、もっともはげしく悲嘆にくれたのはブッダであった。ブッダは、タッタやシャカ族の人々に自分の教えが結局なんの救いにもならなかったことに、はげしくうちひしがれていた。
アナンダの背後にマーラが忍び寄り、ブッダを捨てて自分といこうと誘う。しかし、アナンダはブッダのもとへいき「あなたはけっしてむだだったのではありません!」という。「私という極悪人の人殺しが救われたんですよ!!」と。
マーラは「私のことばが聞こえないのか」というが、アナンダは「だまれ 消え失せろっ 悪魔!!」と叫ぶ。マーラは小さなヘビの姿になって消えた。
アナンダのことばがブッダにちからをよみがえらせた。アナンダは、なぜタッタがブッダを追いかけて竹林精舎からやってきたのかといぶかる。
ルリ王は牢獄に父をたずね、牢獄から出すかわりに隠居せよと迫る。パセーナディ王が聞くはずもない。ルリ王子が去ると、パセーナディ王はブッダにいわれたことを思い出し、壁の下にある雑草を見ると、「けなげなものよ わしも……見ならうか……」とつぶやいた。
1年たったある日、竹林精舎からデーパがやってくると一大事を告げた。ビンビサーラ王がアジャセ王子に幽閉されたこと、アジャセが王位につき、ダイバダッタは王から大金をもらって勢力をのばした。教団の者たちは動揺しており、このままでは教団は破滅してしまうという。
ブッダはデーパに、「これをのりこえることがまことの試練だ」とサーリプッタに伝えよといって先に出発させた。ブッダはアナンダとふたりだけで出発した。ルリ王子に父を解放するようにといいおいて。
パセーナディ王は扉が開いているのに気づき、牢を出てマガダ王国をめざした。城門の前で名乗りをあげるが、門衛は相手にしない。翌朝、老人のなきがらが城門の前にころがっていた。門衛はその老人を共同墓地へ運んでいった。
第2章 ダイバダッタ
ブッダとアナンダはマガダ王国についた。アジャセはブッダにビンビサーラ王への面会を禁じ、ダイバダッタが竹林精舎の指導者になったという。
ダイバダッタは、ブッダが選ばれた人間であると証明するために、安全なほうの盃を選べという。ダイバダッタはふたつとも毒を入れるように指示してあったが、ブッダは平然としていた。ダイバダッタの部下が毒を入れなかったのだった。
ダイバダッタはブッダを竹林精舎へ誘い、途中で大石を落とすが、石は砕けてしまう。毒矢で狂ったゾウにブッダを襲わせると、ブッダはゾウの心の中に入って毒矢を抜かせた。ダイバダッタは自分の爪に毒をぬってブッダを殺そうとするが、転んだため自分のからだを傷つけて死んでいった。
第3章 アジャセ王の微笑
大公妃はからだに蜜をぬってビンビサーラ王になめさせていた。
アジャセ王はダイバダッタが死んだと聞いて部屋に閉じこもる。額に大きな膿腫ができて、痛みに苦しんでいるのだった。
ブッダはビンビサーラ王が幽閉されている塔にやってきた。そのとき王の容態が急変し、ブッダは王のもとへ駆けつけた。王はアジャセを弟子にして救ってやってほしいと頼んで死ぬ。ブッダは城へもどり、アジャセ王の額に人差し指をあてた。それから毎日12時間アジャセの額に指をあてつづけた。しかも3年間。
3年目、ブッダが「では明日」といって去ろうとすると、アジャセが微笑んだ。ブッダは「あの微笑みは……まるで……神のようだった」と思う。
その瞬間、ブッダは悟った。ブッダは喜びのあまり走りつづけさけびつづけた。そして近くの山の頂きに登り天にむかってなおもさけんだ。
ブッダは霊鷲山に台座をつくらせ、ときには瞑想にふけり、ときには人々に教えを説いた。その話はいままでの弟子たちへ説く教えとはまったくちがっていた。僧たちへのきびしい戒律やいましめのことばではなく、どちらかというと一般の人むきで深い人生の味わいがあった。だからどんな身分の人間にもよくわかった。
アジャセ王がやってきてブッダの話を聞くと、泣きながら、宰相に前王の盛大な国葬の準備を命じ「ブッダよ、予は生あるかぎりあなたの弟子だ……」といった。
第4章 旅の終わり
ブッダは新しいさとりを得てからは、自分の死の予感をますます強めていた。そこへ、旅先でサーリプッタとモッガラーナが死んだとの知らせが届いた。モッガラーナの荷物の中にはブッダにあてた手紙があった。そこにはブッダの命があと10年4か月しかないと記されていた。ブッダは涙を流して悲しんだ。
その夜、ブッダははげしい腹痛を起こしてのたうちまわった。悪魔が「おまえはもう充分生きた。死ね」というが、ブッダはそれをしりぞけた。
ブッダまた旅に出た。出発のとき、ブッダはデーパに「さらばだ 友よ」といい、アナンダに「世界は美しい」と語りかけた。
ブッダは500人の弟子とともに長い旅をして、貴族から貧者まで何万人にも教えを説いた。しかしブッダの心の中はそれでもまだ満たされなかった。
ブッダはチュンダという鍛冶屋の家に泊まった。チュンダの妻はヒョウタンツギを料理して出した。ブッダはそれにあたってはげしい下痢におそわれた。木の下で横になったブッダのもとへブラフマンが現われた。
沙羅双樹の花が咲いた。「さあ ぼつぼつ出かけますかな」とブラフマンがいった。ブッダはブラフマンに問いかけた。「私が去ったあと……私の一生かけて説いた話は……どうなるのですか!! 百年たち千年たったあと 忘れられてしまうのですか!!」ブラフマンは「それを見せて進ぜよう」といって、ブッダの手をひいて歩きだした。ブッダは息をひきとった。