いつだってあと少しで飛び立てるのに――
北の大地に生きる若者たちの‶傷と愛″の物語。
児童福祉を巡る現実と「人間の可性」を問う著者渾身の傑作長編。
北海道・大沼湖畔に佇む2つの施設。
そこではさまざまな事情で親元を離れた少年少女たちが、職員たちと一つ屋根の下で暮らしていた。施設を束ねる藤城遼平の娘・ゆきは新人の理学療法士。偶然、父の教え子である同世代の摩耶が唄うYouTubeを見たことで摩耶のライブに訪れた。そこで摩耶の兄・拓弥と出会い……。実在の児童自立支援施設を取材し、繊細な心情を描き上げた著者の新境地。
◎解説=大崎麻子
セバット・ソングのセバットとは、湖の一角にある「狭い場所」で、
「温かい水がそこにだけ注ぎ込み、唯一結氷しない場所」だという。
シベリアから飛来してくる白鳥の群れが、
そこで羽を休め、準備ができたら、再び飛び立っていく。
人間にもセバットが必要だ。
安心安全な場所。自分らしくいられる場所。
食べて、眠って、身体を休め、英気を養える場所。
子どもは健やかに成長するために、
大人に生き延び続けるために、セバットが必要だ。